令和6年度大阪大学基礎工学部編入体験記
はじめに
はじめまして.ふかだ(@towardbluesky)と申します.
2023年7月8日と9日に実施された編入試験で大阪大学基礎工学部 情報科学科 ソフトウェア科学コースに合格したので,体験記を書きます!
自己紹介
- 名前:ふかだ
- 出身:N高専情報科
- 席次:1年生1位,2年生2位,3年生1位,4年生1位
- 受験年度:2024年度(令和6年度)
- 併願校:広島大学情報科学部,京都工芸繊維大学
-
TOEIC:885点(L:475点,R:410点)
勉強内容
英語(TOEIC)
- DUO3.0(5周)
- 金のフレーズ(10周)
- 公式問題集(6〜8の3冊を1回ずつ)
- 文法特急(3周)
4年生の10月に885点(L:475点,R:410点)を取得しました.以下に勉強法を書きます.
4年生の3月からDUO3.0とシャドーイングを始めました.DUOは1日1SECTION,シャドーイングは公式問題集のPart3,4の音源を1日1つやりました.これを9月まで毎日続けました.リスニング対策は公式問題集のシャドーイングが確実です.ディクテーションや洋画鑑賞も試しましたが,効果は薄かったです.シャドーイングはディクテーションより難しいですし,最初は30秒の音源のシャドーイングに40分くらいかかります.やり始めが一番きついですが,そこさえ耐えればこっちのものです.
4年生の5月から金のフレーズをやりました.ここで意識したことは
- 英語を日本語に変換すること
- 単語の品詞
の2点です.1点目ですが,LRでは日本語を英語にする能力は不要です.よってひたすら英語を日本語に変換する訓練をしましょう.
2点目ですが,単語の品詞はめちゃくちゃ大事です.名詞,形容詞,副詞,接続詞などの区別を単語学習の段階で身に着ければ,リーディングがとても楽になります.特に高専生は品詞を軽視している人が多い気がします.
4年生の7月から文法特急を始めました.これはPart5と6の対策です.TOEICのリーディングはいかにPart7に時間を残すかです.なのでこの本でPart5と6を補強しました.
4年生の9月(本番直前)に公式問題集を解きました.分からない単語や表現が出てきたら別紙にメモしますが,そのときは絶対に品詞を書くようにしました.また,動詞なら自動詞か他動詞かも書きました.繰り返しになりますが品詞や自動詞/他動詞の区別はめちゃくちゃ大事です.こういった細かい部分をコツコツやることで,解答の確度が高まります.
TOEIC対策をまとめると
- リスニングは公式問題集のシャドーイング
- リーディングはPart5,6を早く終わらせる
- 品詞などの細かい部分が大事
- 英語を日本語に変換する力さえ鍛えればOK
となります.
数学
上の3冊は大問1と大問2の対策,下の2冊は大問3の対策です.新確率統計は,広島の受験に確率統計が必要だったのでやりました.基礎工を受けるだけなら細野確率で十分だと思います.ただ細野確率には条件付き確率が出てこないので,他の本で補いましょう.
以下は私の勉強スケジュールです.
4年生の3月から徹底研究を1日1ページやりました.1周目は何もわかりませんでした.大事なのは何が分からないかを言語化して,解消していくことです.1周目で絶望してやめないでください.
4年生の12月から過去問特訓を始めました.こちらも1周目は意味不明でしたが,分からない問題の分からない部分を明らかにすることで徐々に解けるようになりました.
5年生の3月から大学編入のための数学問題集を始めました.解説が丁寧なのと,ベクトル空間と線形写像の説明が一番わかりやすいです.徹底研究と過去問特訓だけでベクトル空間と線形写像の理解を完璧にするのは無理です.また,この本は過去問特訓をある程度やった後にやらないと間違いなく挫折します.私は一回挫折しました.
同じ時期に細野確率と新確率統計を勉強しました.細野確率は総合演習もやりましたが,必須ではないと思います.
また,数学では分野ごとに理解が甘い部分をルーズリーフにまとめました.今思えば,この作業は知識の整理にとても役立ったと思います.最終的には50枚ほどになりました.
物理
- 弱点克服大学生の初等力学(3周)
- 演習力学(剛体の範囲を1周)
- 物理のエッセンス(熱を1周)
- 基礎物理学演習Ⅰ(熱を2周)
まず,私は電磁気を捨てていました.基礎工では力学,電磁気,熱の3問から2問を選びますが,私は受験前から力学と熱を解くと決めていました.できれば電磁気も対策すべきですが,問題が配られてからどれを解くか迷うくらいなら予め決め打つのもアリです.
力学は剛体しか出ないので,弱点克服大学生の初等力学と過去問だけでも対応できます.演習力学もやりましたが,基礎工の問題とは似つかないものが多かったです.5年生の1月くらいから始めました.
熱は一か月あれば完成できます.最初にヨビノリさんの解説動画と物理のエッセンスを使って高校レベルの熱力学を学びます.そして全体を理解した状態で基礎物理学演習Ⅰをやれば,もう過去問に太刀打ちできるはずです.私はこれを5年生の2月にやりました.
過去問
数学は20年分(2004~2023),力学と熱力学は15年分(2009~2023)解きました.
解き始めたのは5年生の3月半ばからです.
数学は平成16年(2004年),物理は平成26年(2014年)が鬼のように難しかったです.このように分からない問題があれば学校の先生に聞きに行きました.先生をもってしても,小問1つに対して1時間くらいかかることはざらでした.先生と共にあーでもないこーでもないと議論する時間も無駄ではなかったと思います.
面接・口頭試問
面接の対策は3週間前から始めました.志望動機などをメモにまとめ,3人の先生方に面接練習をお願いしました.
問題なのは口頭試問です.過去の体験記を参照しても何を対策すればいいか今一つ分かりませんでした.そこで,私は専門科目でやった内容と基本情報技術者試験の内容を復習しました.ホワイトボードを使った練習も1,2回はしました.
出願情報
出願者:計算機7名,ソフトウェア16名
受験者:計算機7名,ソフトウェア16名
合格者:計算機2名,ソフトウェア3名
このようにソフトウェア科学コースの倍率は5倍以上あります.情報系の学科はこれから益々人気になるでしょうから,枠を増やして欲しいです.
試験の内容
英語(TOIEC)
当日試験はありません.数学と物理によほど自身が無い限り,700は欲しいです.落ちた人も含め,周りの受験者は殆どが700超えでした.
数学(120分)
去年と比べると易化,過去5年と比べると例年通りの難易度でした.以下で詳しく書きます.
大問1(得点率:10割)
微分積分の問題ですが,今年は定積分で与えられた2変数関数の最大値がテーマでした.z(x,y)がxからyまでの定積分で与えられており,被積分関数の中に定数aがあって,x^2+y^2=1のもとでの最大値をg(a)とする.みたいな感じでした.
ラグランジュの未定乗数法を使い,a=0のときとa≠0のときに場合分けすれば解けました.
大問2(得点率:10割)
対角化に関する問題でした.3次正方行列Aをまず対角化して,次にAのn乗を求め,最後に行列の指数関数(e^A)を計算しました.行列の成分は全て1,6,2のような整数で,文字がなかったので丁寧に計算すれば大丈夫でした.
大問3(得点率:10割)
赤玉と白玉の入った袋Aと袋Bから球を復元抽出する問題でした.ベイズの定理を使って,取り出した球の情報から袋の種類を区別しよう!みたいな話でした.誘導に従えば解けると思います.
このように,数学は10割取れました.過去問20年分では一度しか全問正解できませんでしたが本番でこういうことがあるので,やはり編入試験は運要素が強いです.
物理(90分)
例年通りの難易度でした.以下で詳しく書きます.
力学(得点率:6~7割)
円盤が斜面を転がるという,典型的な剛体の問題でした.ただし小問1~4は滑りがない場合,小問5~8は滑りがある場合,のように2パターン考える必要がありました.また,力学的エネルギーの保存(滑りがない場合),力学的エネルギーの非保存(滑りがある場合)を示す問題もありました.おそらく数式で示して欲しかったのでしょうが,私はこれを日本語で説明してしまったため,部分点がなければ悲惨なことになっている筈です.
電磁気(選択せず)
ソレノイドの磁束密度に関する問題だったと思います.そもそも解く気0なのでチラ見だけして熱力学に行きました.
熱力学(得点率:7割)
ディーゼルサイクルに関する問題でした.(1)から(4)で仕事や熱を計算して,(5)で熱効率を,(6)で熱が再利用できる場合の熱効率を計算しました.難しかったのが,(5)の熱効率は各状態の体積と比熱比しか使ってはいけませんでした.ポアソンの法則や状態方程式を使って文字の種類を減らしていく作業が計算ミスを誘います.合っているか自信がないので7割とします.
面接・口頭試問
2日目に面接(口頭試問)が行われました.面接室には先生方が3人いらっしゃり,そのうちお1人がメインで質問をされます.面接室にいる時間は10分くらいでした.
面接室に入ると,まず口頭試問でした.問題を印刷した紙が置いてあります.大問1を3分以内で説明し,それが終わったら大問2を3分以内で説明します.問題は以下の通り.
大問1
ハッシュテーブルに同じハッシュ値のデータが来たらどうすればよいか.
大問2(3問のうち1つを選択)
2-1:パイプライン処理の概要とメリットを説明せよ.
2-2:ニューラルネットワークはどのような数理モデルか.
2-3:電子メールに電子署名をつけることのメリットは?
大問1に関しては,オープンアドレス法とチェイン法を説明しました.どちらか片方でもOKでしょうが,覚えていたので両方説明しました.
大問2に関しては,2-2を選択しました.ニューラルネットワークの図を書いて入出力の流れを説明したあと,誤差逆伝播法を説明しました.2週間ほど前に授業課題でニューラルネットワークを実装していたのでラッキーでした.
口頭試問が終わると,そのまま面接が始まりました.
・志望動機は?
・試験の出来は?
→数学と物理の手ごたえを答える.
・英語(TOEIC)の出来は?
→聞かれると思わなかったので焦る.全力の結果なので満足しています,と答える.
・他大学の志望順位は?
以上でした.卒業研究や将来の展望は何も聞かれず拍子抜けしました.受験者数が多くて聞いてる暇がないのかもしれません.
口頭試問に関してですが,時間制限が短いのでソースコードを書く問題は出ないと思います.
どうして合格できたのか
さて,ここからが本題です.なぜ受かったのかを考察してみます.
1.早めに照準を定めていたから
私は4年生の4月には基礎工を受けると決めていました.早めにゴールを設定すれば,早めに対策を開始できます.進路は迷うのが普通ですが,迷いながら勉強するのはあまりおススメしません.
2.筆記試験の解答が丁寧だから
ここからがこの体験記で最も言いたいことです.私は,他の受験者の方と比べて解答が丁寧だと自負しています.具体的には,文字が丁寧で論理が丁寧ということです.
文字を丁寧に書くのは,意識すれば難しいことではありません.問題集を解いているとついつい字が汚くなりますが,せめて過去問は本番を想定して綺麗に書きましょう.
論理を丁寧にするのも,それほど大変ではありません.数式を書き始める前に一言入れる,問題文にない文字を登場させるときは説明を書く,横着な式変形をしない,∵(なぜならば)記号で式変形の意図を表現する,などです.
面接は面接官と受験者のコミュニケーションです.これは誰でも想像できると思います.私が言いたいのは,筆記試験は作問者(採点者)と受験者のコミュニケーションであるということです.
作問者が作った問題の日本語を受験者が理解する
↓
受験者が数式と日本語で解答を作成する
↓
採点者が解答を見て採点する
という流れはまさしく面接と同じコミュニケーションです.マークシートのように機械が採点するわけではないのです.
筆記試験の解答は,自分がどれだけ問いを理解しているかアピールする唯一の場です.それを有効活用しないのは,面接でタメ口で話すのと同じくらい失礼なことです.
伝えたいこと
・解答は丁寧に書きましょう.
・正確な解答のために,用語の理解もしっかりしましょう.例えば「テイラー展開」と「テイラーの定理」の違い,「固有方程式」と「固有多項式」の違いなどです.
・断熱過程の仕事は,仕事の定義から求めるのではなく熱力学第一法則を使いましょう.熱効率を求めるときに変形が大変です.
・何かあればTwitter(@towardbluesky)にDMください.私も一人ではなく,先輩,先生,友人,家族のサポートがあって合格できました.
余談
口頭試問対策で使った自作の予想問題を載せておきます.